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市場は特別な悪材料を知っているのか

㈱T&Cフィナンシャルリサーチ・吉田 恒

昨年のように、夏にかけて米景気不安が広がっています。ただ私は、このような昨年の「再現ドラマ」シナリオに対して懐疑的です。それは、簡単な言い方をすると、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融引き締めに転換したわけでもない中で、景気が減速に向かい、景気不安が拡大するということが本当にあるのか懐疑的だということです。

◆本当に悲観的になる状況なのか
それは、結果的に景気不安を受けた株安が7月まで続き、FRBも量的緩和の再開、QE2を余儀なくされた昨年ですら、一部で議論になったことでした。昨年7月初め、NYダウの下落が2割に迫りかねない悲観的ムードが広がった際に、有力投資週刊誌「バロンズ」のこんな記事が注目されました。
「What does the market know that we don’t」。「マーケットは何をそんなにおびえているのですか。ひょっとしたら、我々の知らない悪い情報でも知っているのですか?」といった訳になるでしょうか。
そのバロンズの記事が使ったのが、長短金利差と米株の関係でした。これを見ると、米株の急落は、長短金利差が±0.5%以内といった具合に小幅な中で起こっていました。これに対して、昨年は長短金利差が2%を大きく超えるほど大幅に開いていたのです。
要するに、株価急落は長短金利差、別な言い方をするとイールドカーブがフラットな状況で起こるものでした。それに対して昨年は、イールドカーブはスティープ、金利差が開いた状況にありました。
普通なら、株価急落が起こらないイールドカーブの状況であるにもかかわらず、株価に弱気になっているなら、「What does the market know that we don’t」、何か特別な悪い情報でも知っているのですかとして、バロンズは皮肉ったわけです。
ところで、なぜこんなふうに、株価急落は長短金利差が開いていない中で起こってきたかというと、実に簡単なことです。長短金利差が小幅な状況とは、短期金利が高く、長期金利が低い状況です。短期金利とは、政策金利ですから、それが高いということは、利上げを何回も繰り返してきた結果ということです。利上げを何回も続けると、景気が先行き減速する見通しとなるため、長期金利が低下します。そういった中で株価急落が起こるということは当然でしょう。
その逆に、長短金利差が開いている状況とは、短期金利が低く、長期金利が高いということです。政策金利である短期金利が低いということは、利上げをしないということです。そういった中では、株価が2割以上の急落に向かうことはなかったのです。
さて、昨年の場合も、こういったバロンズから皮肉られる中で、NYダウは下落率が2割以上に拡大する前で一巡となりました。長々と述べてきましたが、長短金利差の状況は、最近の場合も、一年前と同じように大幅に開き、つまり普通なら株価急落、景気不安が広がるような状況ではないと思います。
確かに、雇用統計など景気指標の悪化は続きましたが、FRBが利上げに動いたわけでもなく、その結果長短金利差が大幅に開いている状況なのに、本当に景気不安が広がるということがあるのか。「What does the market know that we don’t」が再確認される状況にあるのではないでしょうか。(了)

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2011.06.16 | FXレポート

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吉田 恒(よしだひさし)

プロフィール

吉田 恒(よしだひさし)

吉田 恒(よしだひさし)
1962年、青森県生まれ。1985年、立教大学文学部卒業後、(株)自由経済社(現・(株)T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社、2004年1月より同社の代表取締役社長就任。また、投資情報コングロマリット、 T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。グローバル投資情報「G20マーケットインサイト」の編集責任者。また一般投資家向け為替リアルタイム市況「fx wave」の運営責任者、さらに一般投資家向けの為替および株式講演会を精力的に全国展開している。2000年からの米株バブル崩壊暴落、2002年の円急落、昨年2007年8月の円急騰など大相場予測の精度に定評がある。「わかりやすい、役に立つ、当たる」として顧客満足度の高さではFX界随一との呼び声が高い。

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